「大したことじゃないんだけどさ、今度の結婚式、スピーチお願い。」
電車の乗り換え中だから5分しか話せないよ!という私に「1分で終わるから!」と言って彼女は電話をかけてきた。
「…スッ、スピーチ!?!!!!!」
いや、大したことある話だゾ…とツッコミたくなったけれどあまりに淡々と話す彼女の雰囲気に呑まれて「はい、やります」と返事をした。
「話すのは後半。時間は2.3分かなぁ。前半の人は面白い感じのスピーチになるかも。また色々わかったら連絡する!忙しい時にごめんね〜よろしくー!」
プーッ、プー。
いい感じにほろ酔っていた帰り道、私はその電話で一気に酔いが冷めた。
うぉぉ…大役だ…
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スピーチ。スピーチ。スピーチ。
電話があった日から、ずっと頭の片隅にあった。
結婚という人生の大きな節目に、親戚や友達がいる前でスピーチをするってどんな感じがいいんだろおおお……と不安ばかりが頭をよぎる。
この数ヶ月間は友達と会うたび「今度初めてスピーチすることになったのよ…」と相談ばかり。笑
地元の友達と話していた時、不安そうにしている私を見てその中の1人が「これ知ってる?」と棚にあった1冊の本を見せてくれた。
渡されたのは「本日は、お日柄もよく」という本。スピーチライターのお話らしい。
「スピーチライター…そういう職業があるんだ…面白そう…」
すぐにネットで購入して、読んでみることにした。
読み始めると最初に書いてあったのはスピーチの極意10箇条。なるほど。
まさに私が求めていた内容がその本に書いてあって、できる限りのことを実践してみることに決めた。
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そしてついに迎えた結婚式。
式は穏やかなムードで進んでいる。
フォアグラ、キャビアといった豪華な食材。普段中々食べられない料理を楽しみながら話していると同じテーブルに座っていた友人がアクリル板越しに「緊張する?」と聞いてきた。
「ん〜今日はね、ちゃんと話せる気がする!!泣かないよ!笑」
ちゃんと練習してきたし大丈夫だと思っていた。
しばらくしてお色直しが終わり、ついに「新婦のご友人からのお言葉です」というアナウンスが流れる。
よし。
席をスッと立ち、歩き出す。
マイクスタンドの高さを合わせている間に、心を落ち着かせ、手紙を開く。
重要なことは、最後まで絶対に泣かないこと。
そしてご紹介に預かりました〜ですとか、〇〇ちゃんと呼ばせてください、など言わなくてもわかるであろう情報は言わない。
空気感で、声で、限られた3分間を濃いものにしたい。
少し静かになるのを待って、スピーチを始めた。
ゆっくりと焦らず。
練習通り、大丈夫。
そして彼女が励ましてくれたあの日のエピソードを読もうとした時だった。
泣いてるやん。もう泣いてるやん。
彼女を見るとまっすぐと私の方を見ながら、目に涙が溜まっている。やばい。
その瞬間、10年前一緒に乗り越えてきた日々を思い出して、一気に冷静じゃいられなくなった。
足が震え出し、手元も揺れる。
ついに声まで震え始める。
私の立っている場所だけ震度3くらいの地震が発生。
あーーーーー(笑)
思い通りに読めなくなってきて急にジタバタし始め2回ほど、マイクに向かってふぅ、ふぅー!と言ってしまった。笑
だめだ…
込み上げてくると喉がキュッとしまって声が高くなってしまう。あ〜キモいな〜と自覚しながらもなんとか残りの4ページを読み進め、スピーチを終えた。
拍手と共に、恥ずかしくなる。
急いで手紙を封筒にしまったけれど、準備していたトトロのマスキングテープを貼る余裕がなくなってしまい「これ、貼ってぇ」とお願いする私に彼女は笑いながら「うんうん」と言った。
あぁ、最後まで泣かないことって書いてあったのにな…
友人達の元へ戻ってもっとしっかり話せるはずだったのに…と肩を落としていると「よかったよ」「私まで泣いちゃった」と声をかけてくれた。やさしい。
やっとスピーチも終わり、結婚式も終盤に近づいていく。
スクリーンに映し出された今日1日の動画をみながら、改めて素敵な結婚式だったなと振り返る。
そしてご両親に向けて手紙を読む時間へ。
彼女の言葉にはいつも大きな愛とユーモアがあるから、人生の節目にどんな言葉が贈られるのか楽しみだった。
案の定、これ私が親だったら泣いちゃうよぉぉぉと感情移入してしまうほど良いお手紙だった。さすが。
でもコロナの影響を受けて、1度結婚式を延期していたこともあり
他にも胸に刺さった言葉があった。
「今のご時世で結婚式をあげることは私たちのわがままなのではないか、
今までの準備が無駄になってしまうんじゃないかと思うたび、楽しいはずの結婚式の準備が不安になってしまった」
彼女はしっかりしているから、きっとこういう風に思ってしまうんじゃないかと心配になって、ラインをした事もあったけれどやっぱりこの言葉を話している時は声が震えていて、胸が苦しくなった。
みんなの顔が見たいからと全員分のマウスシールドを用意してくれたり、こんな状況でも参列してくれた人へ感謝をこめて彼女がピアノの演奏を披露してくれたり。
大変な時期の中、見えないところで沢山悩んで、楽しんでもらえるように努力して迎えた今日だったんだろうなぁと思えて涙が止まらなかった。
だから、本当に素敵な結婚式だった。
心からそう思う。
高校生の時から今日まで沢山支えてくれた彼女。
彼女のお父さんが1番泣いていたことも、
弟くんが素敵なお姉さんと言っていたことも、
お母さんにサプライズで妹さんと連弾を披露していたことも
全てが大きな愛情で溢れている。
そんな彼女の演奏は本当に美しい。
私もまた、彼女の伴奏で歌える日が来るといいなと思う。
P.S.
ブーケトス。
私を狙って投げたわけじゃないと言ってたけれど、私は飛んでくる予感がしてた。笑
重い!!重みがあるぞ!!やった!!!