『なんでこんなに汗をかくんだろう…』
小学生の時、いつも不思議に思いながら手のひらを見つめていた。
どんなに寒い冬の日でも、気にすると10秒もしないうちに発汗が始まる。
この能力すごいな〜と楽観的に思える時もあったけれど
「気にしない!汗のことなんて忘れよう!」
と思えば思うほど発汗して嫌悪感を抱くことの方が圧倒的に多かった。
学校の正門をくぐると始まる、静かな葛藤。
様々な授業において「苦手なこと」が待ち受けていて、どんな方法で乗り越えるかばかり考えていた。
学校生活
基本的に、手元を見られることが苦手だった。
例えば授業中。先生に手元を覗き込まれると緊張でさらに発汗してしまい、問題の内容が吹っ飛んでしまうことがよくあった。
心を落ち着かせて、また最初から読み直す。
体育の授業では高学年になるとフォークダンスや組体操がはじまる。隣の人と手を繋いだり、互いの身体を支え合わなければいけない。
濡れた手で触れるよりは不快感を与えないかも!と校庭の乾いた土を少し手に取ってパンッパンッと叩いてみる。すると少しの時間だけ発汗を抑えられることに気付いた。よし、これでいこう。
音楽の授業でも、ある時から隣の人と手を繋いで歌ったり、リズムに乗せてハイタッチする授業が始まった。
毎回ペアの女の子に「ごめんね、汗かいてるんだ…」と謝っているうちに大好きだったはずの音楽の授業が心から楽しめない。
次第に「苦手な時間」になっていき、時間割が変わるたび最初にチェックするのは1週間のどこでその教科がくるのか、ということだった。
1限にあったらちょっと我慢、がんばれ私。
5限にあったら1日中気を張る、しんどい、頑張れ私。
心が乱れない方法を探して精神統一をしてみたり、なんとか手に入れた制汗剤をバックの中に入れて持ち歩いたりもした。
それでも発汗を止めることはできなくて、
結局「ねぇ〜なんで濡れてるの〜」といつも誰かを不快な気持ちにさせてしまっていた。
「諦めること」
多汗症になると「手を使う」すべての作業が苦手になってしまう。
それは職業を選ぶ上で大きなリスクを伴う。
例えばお客様に触れる仕事(ネイリストや整体師)、手袋をして作業する仕事(歯科医や医療系)、接客業においてもプレゼントのラッピング(特に透明な袋)に気を遣ってしまったりと選ぶのに躊躇してしまう仕事がたくさんある。
私が初めてその問題に悩まされたのは授業の一環として行われた職業体験の時だった。
様々な選択肢があった中で私が行きたかったのは幼稚園。当時2年間担任をしてくれたゆみこ先生のことが大好きで、先生みたいになりたいな、わたしもやってみたいなという想いがどこかに芽生えていた。
けれどその時はもう誰かと手を繋いだり、触れることに抵抗感を覚えていた時期で
「幼稚園に行ったら小さい子たちの手を握らなきゃいけないもんね…私にはやっぱりできないや…」と諦めた。
そして行くことになったのはダントツで人気のなかった図書館だった。
クラスの友達からは
「え〜幼稚園じゃないんだね、(可愛そう)」
「なんで図書館なんか行きたいの〜、(変わってるね)」
と語尾の後ろについてるであろう言葉を敏感に感じ取ってしまって、同時に疎外感を味わった瞬間でもあった。
その時は多分何かしらの理由を言って笑っていたと思うけれど、幼稚園から帰ってきた子たちは楽しそうで、みんな嬉しそうに話しているから
すごく羨ましかった。
今思い返せば、もしあの時多汗症という病気がある事を知っていたらもう少しだけ気持ちが楽になっていたかもしれない。
鉄棒や黒板、紙。あらゆるモノに対して気を遣ってしまったり
みんなと同じように手を繋ぐことの嬉しさを感じることができなくても、
それはそれで仕方ないや!と自分をちゃんと諦めることができたかもしれない。
現在
あの時からもう10年以上経っているのに未だ社会人になっても健康診断で手術名をかいたらこれは何ですか?と不思議そうに聞かれたりする。
お医者さんでも知ってる人少ないんだぁ…と実感するたび悲しい気持ちになったり理解してもらうのも時間がかかることなんだなぁと思う。
例えば好きなテレビや映画を見ている時でも、それを感じる時がある。
やっと配信が始まった映画をスマホで見ていると、割と序盤の方で
「彼氏の手汗がやばい」というセリフ。
そして驚くほど気持ち悪い効果音。
そうだよね、普通の人からしたら気持ち悪いよね、私が一番思ってるんだ自分の手気持ち悪いなって。
ちょっぴり落ち込む時もある。
すべては作る人も見る人も多汗症という病気を「知らない」からで、
同時に今までの私みたいに声を上げられなかったことが大きな原因になっていることもわかってる。
このままでいいのかな。
何かできることはあるのかな。
これからの取り組み
監督さんと電話で話していた時、
このドキュメンタリーが果たして今悩んでいる子供達の元へ届いているのだろうかと思った。
YouTubeのコメント欄では沢山の人が「私も多汗症です」と想いを打ち明けてくれるけれど、恐らくその多くは今まで隠して生きてきた大人たちで、スマホを持っていない子供達のところまで届けるのは中々難しいと感じる。
もっと多汗症が発症するとされている小学生や中学生、そして悩みながら学校生活を送る子供達たちへ届けることができないだろうか。
そう思って考えたことが
学校や教育機関に携わる方たちに興味を持ってもらうことでした。
約25分の映像だから、授業で流してそのあと少し考えるような時間もある。サイレントハンディキャップやコンプレックスについて考えるいいきっかけとして、賛同してくれる学校や先生がいるかもしれない。
「多汗症?なにそれ拭けばいいじゃん」
という世の中から
「多汗症なんだね。僕、知ってるよ!」
なんてやり取りが当たり前になる世界をこれからの子供達のために創ってあげられたらいいな、と思う。
今変わらなくても、未来のために。
https://www.homma-movie.com/voice
↑詳細(学校・教育機関向け)